12-2. プローブの作製:DNAの標識
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ハイブリダイゼーションで対称とする核酸を探査するための既知核酸をプローブといい、検出に適した物質を核酸に結合させて合成する(標識する)
蛍光色素を使う方法もあるが、多く場合、プローブは放射性同位体(RIを用いて作製される)
1) 放射性同位体(RI)とは
RI(radioisotope:放射性同位体)
放射線(e.g. α線, β線, γ線)を出して原子核構成の異なる元素に変わる(放射崩壊する)同位体(陽子数が同じで、中性子数の異なる元素)の総称
1秒間に1個放射崩壊する量を1ベクレル(Bq)という
遺伝子工学で使用されるRIの大部分は$ {}^{32}\mathrm{P}(リン32)だが、トリチウム(三重水素)やイオウ35、時としてヨウ素のRIも使われる
table: 表12−2 遺伝子工学実験でつかわれるRI
元素と質量 崩壊形式 半減期 エネルギー(MeV) β線 エネルギー(MeV) γ線
3H(トリチウム) β- 12.3年 0.0185 -
14C β- 5,760年 0.156 -
32P β- 14.3日 1.71 -
35S β- 87.1日 0.169 -
125I γ, EC 60日 - 0.035
131I β-, γ 8.1日 0.605(86%), 0.25(14%) 0.637, 0.363, 0.282, 0.08
ヨウ素はγ線(X線よりも波長の短い電磁波)を出すが、他はβ線(電子線の一種)を出す
リン32のβ線はエネルギーが大きく、X線フィルムを感光する
イオウ35、炭素14も弱いが感光可能
リン32は無機リン酸やヌクレオチド中の特定のリン酸期に入った状態で使われる
2) DNAをRI標識する方法 (A) : DNA合成による方法
核酸関連酵素を使い、DNAの様々な部分を様々な方法で標識することができる
末端標識法
3'末端でのDNA合成を利用する
原理
5'突出DNAの場合、一本鎖部分を修復して平滑末端にするようなDNA合成を行う
それ以外の形状の末端の場合は、DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性と重合活性を組み合わせて、標識ヌクレオチドを3'末端に1個だけ取り込ませる
ポイント
T4/T7DNAポリメラーゼ、あるいはクレノー断片を用いるが、エキソヌクレアーゼ活性と重合活性を使って末端を標識する場合は、T4/T7 DNAポリメラーゼが汎用される
末端部分の塩基の種類を確認し、取り込まれるdNTPを使う
両末端で末端形状や塩基酒が異なる場合、DNAの各末端のいずれかを優先的に標識することもできる
平滑末端や3'突出末端の場合は、平滑末端となったときのさい3'末端の塩基を標識ヌクレオチドとして加える
注. 5’末端をDNA合成によって標識することはできない(合成方向が5'→3'のため)
内部標識法
ランダムプライマーによるDNA合成を利用する
原理とポイント
雑多な配列をもつ8~10塩基のオリゴヌクレオチドの混合物(ランダムプライマーとして使用する)を、変性したDNAに100%相補的でなくとも全体的にアニールさせ、DNA合成のプライマーとして用いる
DNAの種類や長さに関係なく使用でき、DNA分子全体をほぼ均一に標識することができる
ニックトランスレーションを利用する
原理とポイント
pol I(DNAポリメラーゼI)のニックトランスレーション活性を利用して、DNA内部にランダムに標識を入れることができる
反応前にDNase Iで軽く処理するとニックが多数入るので、標識効率を上げられる
RNAから一本鎖cDNA合成反応を利用する
原理とポイント
逆転写酵素によってRNAからcDNAをつくる
ランダムプライマーをプライマーにしてつくるが、ポリA鎖をもつmRNAの場合、dTのオリゴヌクレオチドであるオリゴdTもプライマーとして使える
ただし、合成が3'末端に偏る
いったん二本鎖DNAにしてから上のように操作する方法もある
3) DNAをRI標識する方法 (B) : 末端のリン酸基標識による方法
原理とポイント
5'末端が脱リン酸化されて-OHとなっている核酸の末端を、T4ポリヌクレオチドキナーゼとγ位のリン酸基が標識されているATPを用い、標識リン酸基を目的核酸の5’末端に移す
これも末端標識法
末端が正確に揃ったプローブが得られ、末端からの距離に基づく核酸の正確な分析(e.g. マクサム・ギルバート法, DNase I フットプリント法)の材料調製に適している
memo: RNAプローブ
ファージ(e.g. SP6, T3, T7)のRNAポリメラーゼのプロモーターをもつベクターと標識NTPを用い、in vitro転写を行って作製する
4) RIを画像として検出する:オートラジオグラフィー
リン32など、エネルギーの大きな放射線がX線フィルムを感光する性質を利用して、RI標識分子をフィルム画像に残して検出する方法をオートラジオグラフィーという
核酸のゲル電気泳動の場合、電気泳動が終わったゲルに、暗所でフィルムを重ねて適当な時間をおき(感光し)、その後フィルムを現像する
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フィルムは「ネガ」なので、RIがあった場所は黒くなる
放射線が当たると光を出す板に試料を重ね、その後板から出る光を専用の装置で検出する方法もある
memo: フルオログラフィー
オートラジオグラフィーを行えないようなエネルギーの弱いRI(e.g. トリチウム)を像として記録する方法
ゲル電気泳動の後、β線で発光する物質(一般にシンチレーターという)をゲルに染み込ませ、光をX線フィルムで検出する
memo: 蛍光色素による核酸の標識
核酸標識法には蛍光色素を使う方法もあり、Cy3やCy5といった蛍光色素の付いたヌクレオチドを使って核酸を合成する
Cy3とCy5はレーザー光を当てると、それぞれ緑、赤の蛍光を発するので、そのありかを写真やCCDカメラで検出できる
RI実験施設でなくとも実施でき、DNAマイクロアレイ解析では一般的な標識法